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大学の学びを変えるゲーミング

大学の学びを変えるゲーミング

【優秀賞受賞】ゲーミング授業の準備から実践まで、ゲーミングに取り組むための全てはこの中にある。

著者 近藤 敦 編著
豊田 祐輔 編著
吉永 潤 編著
宮脇 昇 編著
ジャンル 教育
おすすめテキスト > 政治
おすすめテキスト > 教育
出版年月日 2020/01/15
ISBN 9784771032453
判型・ページ数 A5・228ページ
定価 3,080円
在庫 在庫あり
 

目次

Ⅰ アクティブ・ラーニングとゲーミング―その魅力と理論―

第1章 学習者を巻き込むゲーミング――その7つの魅力――
 1 ケンカ寸前のゲーミング
 2 外観主義から内部的で状況的な理解へ
 3 「対象」が「課題」に変化する
 4 「自分オリジナル」をつくり出す楽しさ
 5 失敗できる自由
 6 解釈と評価の自由
 7 「神」不在のリアリティ

Ⅱ ゲーミングを通じて学ぶ――実践事例とその構造――

第2章 歴史ゲーミング教材「1630年代幕府の選択」の構成と実施例
 1 はじめに
 2 ゲーミングの教育目標と内容構成
 3 人数と座席配置
 4 ゲーミングの進行
 5 導入説明の内容構成
 6 「指令書」の内容構成
 7 ゲーム「実況中継」
 8 ゲームの多様な結果とゲームへの学習者の評価

第3章 「コミュニティ防災ゲーム:地震編」でコミュニティ防災を体験しよう!
 1 コミュニティ防災におけるゲーミングの重要性
 2 「コミュニティ防災ゲーム:地震編」の構成
 3 「コミュニティ防災ゲーム:地震編」の工夫と期待される効果

第4章 ゲーミングで水紛争を学ぶ
 1 ゲーミングで水紛争を学ぶ意義とは
 2 水紛争の多様性と多元性
 3 ゲーミングの重要要素「場」の設定と創造
 4 アクターとルールの設定
 5 ゲーミングの進行と諸設定
 6 ゲーミングの実施
 7 「場」の架空ゲーミングの評価

第5章 地方自治のゲーミング
 1 この分野の特徴
 2 地方自治のボードゲームとそのゲーミング
 3 地方自治のカードゲームとそのゲーミング
 4 学習効果を引き出すために

第6章 「外交政策決定ゲーミング・シミュレーション」の実施方法――比較的規模が大きなゲーミングの実施事例として――
 1 はじめに
 2 「外交政策決定ゲーミング・シミュレーション」
 3 ゲーミングの実施手順
 4 ルールの詳細――「予算編成」
 5 ルールの詳細――外交
 6 ルールの詳細――「ニュース」
 7 ゲーミングの考え方
 8 おわりに

第7章 合意形成のサクサク交渉ゲーミング文書に残そう!
 1 スマート・ゲーミング――既存の会議の合意文書をもとに実施しよう――
 2 国際合意作成のゲーミング設計――課題は多様,参加国は固定,目標・制約を抽出――
 3 合意作成ゲーミングのルールと方法
 4 実際のゲーミングの経過⑴――G7 タオルミーナサミット環境大臣会合を事例に――
 5 実際のゲーミングの経過⑵――日EU のEPA交渉――
 6 What and Why期待される学習効果と検証用課題

第8章 グローバル・シミュレーション・ゲーミング――立命館大学国際関係学部における実践――
 1 GSG の展開
 2 GSG の授業展開
 3 GSG 本番
 4 授業の効果

Ⅲ ゲーミングを創る――第Ⅱ部の内容をリフレクトして――

第9 章 ゲームの構造,役割,ルールを考えてゲーミングをつくる!
 1 自分で新しいゲーミングを作ってみる
 2 既存ゲームを修正してジレンマの状況になるゲームを作ってみる
 3 現実の世界を投影するゲーミングを1 から作ってみる
 4 楽しめる要素を加えてみる
 5 ディブリーフィングの大切さ

第10章 社会科教育におけるゲーミング開発の発想法――「1630年代幕府の選択」を事例として――
 1 はじめに
 2 「流れ」史観を疑ってみる――発想法①
 3 指導要領を味方につける――発想法②
 4 「鎖国」を通じて現代社会を考えさせたい――発想法③
 5 宗教と政治の問題についてのリテラシーを形成したい――発想法④
 6 単純な善悪裁断をさせたくない――発想法⑤
 7 「ネタバレ」の心配は不要――発想法⑥
 8 教科書と現実社会を架橋する――発想法⑦
 9 おわりに

第11章 SIMPLE,SMART,SOFT の3原則で合意作成ゲーミングを30分でつくる!
 1 合意作成ゲーミングの魅力――Simple,Smart,Soft――
 2 すぐにつくろう――準備はたったの3 ステップ!――
 3 ゲーミングをつくる時の気分
 4 ゲーミング当日
 5 学習効果を得るための工夫

コラム世代を超えるゲーミングのプレイヤー

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内容説明

【日本ゲーミング&シミュレーション学会「優秀賞」受賞】

新しく魅力的な学び、夢中になれる学び

ゲーミングの理論はもとより、実践例、そしてゲーミングの準備・作成方法を解説。
ゲーミングに取り組むための全てを1冊に。

「本書は、アクティブ・ラーニングの時代に教育を受ける世代の視点を交えて、ゲーミングやロールプレイングをより容易に行うことで、防災、政治学、国際関係の教育・学習分野の理解を助ける専門書である。換言すれば、座学にも資するディープ・ラーニングを効果的に行い実践する学び方・教え方を示すのが本書の役割である。」(本書「はじめに」より)



本書で取り上げるゲーミング実践例を資料としてダウンロード可能!

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《執筆者紹介》(執筆順)

吉永 潤・・・神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授
豊田祐輔・・・立命館大学政策科学部准教授
玉井良尚・・・岡山理科大学講師,京都先端科学大学講師 
窪田好男・・・京都府立大学公共政策学部教授
近藤 敦・・・立命館大学政策科学部非常勤講師
宮脇 昇・・・立命館大学政策科学部教授
河村律子・・・立命館大学国際関係学部教授


 
立命館大学政策科学部教授
日本シミュレーション&ゲーミング学会(JASAG)理事・会長
国際シミュレーション&ゲーミング学会(ISAGA)理事・元学会長  鐘ヶ江 秀彦 先生より「巻頭言」をお寄せいただきました。

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ためし読み

巻 頭 言
―『大学の学びを変えるゲーミング』刊行に寄せて―

 EC(エレクトリック・コマース)が仮想空間と現実空間との結節門として,既にポイント何倍といったゲーム化したポイント獲得や数十%還元といったキャッシュレス決済のゲーム化,本来は高頻度顧客や宿泊数でマイルやステータスが現実空間の実績によって優遇されるというマイレージ・ライフだったものが仮想空間に拡張して繋がって現実空間の店舗やサービスやレストランと連動する社会になってきた.殊にアマゾン ウェッブ サービス(AWS)と呼ばれるサイバースペースのクラウドサービスが,リアルのビジネス社会で業務の基幹サービスとして多くの会社に有料で利用されている.このようなサイバーとリアルの融合する文脈で語られることの多いこのような新しい現象はゲーム化されたコミュニケーション,ゲーム化された社会プロセスであり,科学の用語では「ゲーミフィケーション(Gamification)」,「ゲーム化された社会(GamifiedSociety)」と呼ばれている.国連の SDGs もふるさと納税も立派なゲーミフィケーションであり,同時にゲーム化された社会である.企業の人材研修から企業の人事と内部競争の方法として,また,位置情報や閲覧履歴,購入履歴から画像情報までも個人のさまざまなデータが収集されて,上述のマーケティングから納税という社会運営までもが既にゲーミング化された社会として成立している.政府が進めるマイナンバーカードによる健康保険証の代替であったり,ワンストップサービスを可能とする電子政府への移行といった Society 5.0 の含意は ICT や AI だけを意味するのではない.
 狩猟社会をSociety 1.0として,農耕社会をSociety 2.0,工業社会をSociety 3.0,1980 年代からの情報社会を Society 4.0 とし,これらに続く,新たな社会について,第 5 期科学技術基本計画において日本が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会が Society 5.0 である.産業革命後の工業社会の Society3.0 の発展段階が,同時に現在 4 ステージ目に移行しつつある.これは第 4 次産業革命(Industry 4.0)と呼ばれ,すべてのデバイスがネットワークに繋がるIoT や,画像を抽象的な深層学習を行う AI やアクチュエーターと呼ばれる動作機構をともなった AI ロボットや自律走行車(CAV)や無人航空機(UAV)が社会や生産を大きく変える局面を技術的特異点とレイ・カーツワイルは提唱した.これは人間と機械が統合された文明という未来事象のことを意味する,その先をユヴァル・ノア・ハラリは「ホモ・デウス」と呼んでいる.
 今後ますます IoT や AI を中心に技術志向の社会が到来し,Society 5.0 とIndustry 4.0 の両方が交錯する近未来が,急速な超高齢化と人口急減下の日本の救済枠組みとなるようすべての国民と企業が向き合って,超情報化社会におけるテクノロジー志向の社会実装と社会経済の構造改革,法制度の迅速な規制緩和による大胆なリフォームを行うことが喫緊の課題である.このため,日本政府は総合科学技術・イノベーション会議(Council for Science, Technology andInnovation)を通じて,日本学術会議も提言した内容とともに,第 5 期科学技術基本計画において日本が目指すべき未来社会の姿として,さまざまなイノベーションによりサイバー・フィジカル空間の高度融合システムにより,経済発展と社会的課題の解決を図ることを目標とした.
 近未来の,いや,既に始まっているサイバー・フィジカル高度融合システムの人間と,そして社会側のメタ・パラダイムがゲーミングなのだ.国際シミュレーション&ゲーミング学会(ISAGA)創立者のリチャード・デュークは,「ゲーミングとシミュレーションは未来への言語」と定義している.つまり,多主体系,いわゆる「社会」モデルのコミュニケーション技法という表現をした.この多主体モデルに参加してシミュレーションを体験して振り返りを通じて,気づきと理解を深め,現在の問題解決への糸口を未来へ向けて探るという特徴こそサイバー・フィジカル高度融合システムの人間と社会側のメタ・パラダイムたる理由なのである.世界的には 1980 年代の成熟した民主主義にインターネットとスマートフォンがもたらした市民が全員参加できる政策の議論であるテクノロジーアセスメント(participatory Technology Assessment:pTA)や,代議士による議場での議論と意思決定を排除して,市民対話を基本とする直接民主制の試みである熟議が普及してきた.そこでは賢い市民が自ら科学的なデータとシミュレーションによる試算を行い,行政やシンクタンクが唯一提示する方式から,多様で知的な市民が多元的な価値観とさまざまなモデルに基づきシミュレーションを用いて予測や試算を行い,エビデンスに基づくデータの解釈や理解を踏まえて政策決定を図る地方政府になりつつある.その一方でゲーミングを用いた統治で良質な市民とコミュニティを通じて社会の公正を担保する例も増えてきた.ウィキリークスは特殊であるものの,ウィキペディアを始め,オープンソースや研究論文のオープン化の流れ,Code for Americaをはじめ,CivicTech と呼ばれる新たな社会問題の解決方法とともに,トリップアドバイザーの口コミや評価(レーティング)などでも市民の良好な参加による公正の確保が既にゲーム化された社会運営として用いられる時代となってきた.ジェイン・マクゴニガルの著書には,英国でガーディアン紙が始めた「地元選出議員の経費を調べよう」プロジェクトの例が出ている.この事例はクラウドソーシング(群衆英知による集合参加)として人々のゲーミング参加を通じて成功した事例である.ガーディアン紙は公開情報となった 100 万枚以上の国会議員の黒塗りされた経費請求記録を分類もインデクスもないスキャンデータの画像として情報公開で手に入れたが,記者や職員のみでは精査に時間がかかるため,50 ポンドのレンタル料金の web サイトにこの画像をアップロードして,「地元選出議員の経費を調べよう(Investigating Your MPʼs Expense)」ゲーミングの提供を開始した.これは世界的な大規模多人数参加型調査ジャーナリズムのゲーミングである.国会議員の経費を調べるという活動に参加して,文書をじっくり一枚ずつ調べて,その経費文書に興味深い情報が含まれているか判定して,重要な事実を発見することがゲームのミッションとなっていた.この経費請求書は「ブラックアウトゲート」と呼ばれ,このゲーミングに英国内はもちろん 2 万人が世界中から参加して,開始 3 日後には 17 万通の文書を分析して,結果的にはさまざまな経費搾取やモラルハザード,議員の隠し事などが明らかになり 28 人の議員が辞職を余儀なくされ,うち 4 人の議員は刑事訴訟された.ゲーミングは確かに社会を変えつつあるのだ.
 ところで,教育は政策現象である.殊に,公教育は政策現象である.先に生まれた国民(や市民)が次世代に何を教えるかについて議論し,法案を承認して,憲法に定める義務教育として,あるいはその後の中等教育と高等教育についても意思決定をして,予算を配分して,必要があれば学校を建設し,教科書を検定し,教員を養成するための高等教育システム(教育学部や教職課程)をつくり,国家試験でライセンスまで発給している.これを公共政策と呼ぶ.複数の公共施策を束ねている公共政策という政策パッケージは全て行政需要予測というシミュレーションに基づいている.伝統的な座学や教科書の暗記や音読は,伝統的な知識移植の教育である.現在では参加型のワークショップや,反転授業,サービス・ラーニングなど学生が参加しながら教育する手法(教員側からは教授法と呼ばれる)に脚光があたっている.本書『大学の学びを変えるゲーミング』の事例が高等教育において用いられているからと言って教育に依拠しているわけではない.近年では参加しながら教育するアクティブ・ラーニングが大流行だが,本書はシミュレーション&ゲーミング分野が最も重視する「知識の移植ではなく,ゲームに参加することで世界観の獲得であったり動態(ダイナミック・システムの挙動)の理解をするという体験を通じて体得(学習)する」という,ゲーミング・シュミレーションの学習に依拠している.言い換えれば,実際にやってみる(体験から学ぶ)という学習を基軸にしている点が教育という政策現象と大きく異なる点である.ギリシャ神話の神々もゲームをするのだが,もちろんゲーミングは人類の誕生とともにある古くて新しい現象である.ホイジンガの「ホモ・ルーデンス(homo ludens)」は,ラテン語で「遊ぶ人間」という意味である.ホイジンガが述べたように「ゲーミング」の存在自体は「遊ぶ人間」である人類の誕生とほぼ同じである.今日のゲーミングの研究体系は50 年の歴史,すなわち,第 2 次世界大戦後の「サイバネティックス」の誕生とともに派生的に誕生した.1958 年にはアンドリンガー博士による「ビジネス・ゲーム」の「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌での発表,60 年代からのオフィスコンピュータの普及とともに,戦後の電算化社会の始まりと科学志向の産業化社会とグローバリゼーションの進展がみられた.そのような中,ゲーミングには,国際政治や社会変動,公害などの都市問題といった社会システムの構造理解や問題解決への適応が生じ,科学に基づく合理的な地域開発や環境政策,そして冷戦を終わらせるだけの経済発展と統治枠組の発展が見られた.ローマクラブのレポートである『成長の限界』(1972)共著者の京都賞も受賞しているデニス・メドウズ教授は,ISAGA の創始者でもある.この 70 年代には,ISAGA の学会誌である『Simulation & Gaming』の刊行(SAGE)が始まった.80 年代からはパソコン・ゲーミング,90 年代からはネットワーク・ゲーミングを経て,ビジネスのみならず,教育や医療トレーニングといったいわゆるシリアス・ゲーム,ソーシャル・ゲームが誕生して,情報化社会とインターネット社会の進展をみた.先述のローマクラブ・レポートを遠因として1982 年のリオ・デ・ジャネイロにおける地球サミットという全球的な視点からの環境科学に基づく社会運営などが京都議定書の第 1 約束期間として京都で締結され,パリ協定に至るまでの京都議定書第 2 約束期間に続いたことは記憶に新しい.多国間交渉の場における外交は「会議は踊る」時代から既に「シミュレーションに基づく時代」にシフトした.UNFCC(気候変動枠組条約)の国際会議の場では,事前にデータとモデルのスクリーニングが論文と報告書ベースで行われて,データの採択からシミュレーション・モデルの評価などを踏まえて,政策アジェンダとしての政策変数の議論がされた.日々刻々と変わる政策変数の合意点や採択変数を事前に合意したシミュレーションに投入して,その結果を参加国にフィードバックしてさらなる議論と政策変数の投入が続いた.第 2 約束期間でもできず,その後のパリ協定でもできなかったこのシミュレーションに基づいたリアルタイムのフィードバックによる国際的な政策形成を京都議定書において締結できた裏には,ゲーミング・シミュレーションの専門家であり筆者の先輩の国立環境研究所の故森田恒幸教授のチームがいたからである.
 ISAGA は 2019 年に 50 周年を迎え,日本におけるシミュレーション&ゲーミングの歴史も同年に 30 周年を迎えた.国内の高等研究教育拠点には,多くの大学があるが,本編者・著者らの多くが教育に関わってきた立命館大学政策科学部の「ゲーミング・シミュレーション技法」と「危機管理シミュレーション」の中で試行錯誤されてきた教育実践が本著に結実している.なお,立命館大学では,故関寛治教授が開始した国際関係学部において 30 年にわたって学部生全部が国連や国家,マスコミや多様な団体としてロール・プレイに参加しながら多様な国際関係を学習する秀悦なグローバル・シミュレーション・ゲーミング(GSG)の実践を行うとともに,非常に珍しい任天堂との連携で学内に設置されたゲーム研究センターがデジタルゲームのアーカイブと研究拠点として国際的にも有名となった日本のシミュレーション&ゲーミングの拠点になっている.もっと遡ると,東条英機に敵視された戦前の日本帝国陸軍の希代の戦略家であった石原莞爾が演練と呼ばれる机上戦闘・戦術シミュレーションに関する国防学の研究を行った伝統の系譜にある.
 本著も主に体験から学ぶ(Learning by doing)に即したゲーミング・シミュレーションという個人と組織の学習に焦点を当てて 3 部から構成されている.教育という政策現象から体験しながら学習するという参加者へ軸足を大転換するとともに,新進気鋭のシミュレーション&ゲーミングの研究者であり教育の実践者である本書の編者・著者ら 21 世紀の伝道師たちが示す体験から学び,そこにある問題を理解したり,あるいは解決の糸口を集団で見出そうとするためにゲーミング・シミュレーションを自らデザインして構築できる学習者の解脱までをも射程においた構成をご一読いただければ,シミュレーション&ゲーミングが近未来の基底基盤(メタ・パラダイム)であることが誇張でないことに気づくであろう.

立命館大学政策科学部教授
日本シミュレーション&ゲーミング学会(JASAG)理事・会長
国際シミュレーション&ゲーミング学会(ISAGA)理事・元学会長
鐘ヶ江 秀彦

略語
CAV:Connected Autonomous (Land) Vehicle
UAV:Unmanned Aerial Vehicle

参考文献
ハラリ,Y. N. 著,柴田裕之訳(2018)『ホモ・デウス(上・下)テクノロジーとサピエンスの未来』河出書房新社.
ホイジンガ,J. 著,高橋英夫訳(1973)『ホモ・ルーデンス』中央公論新社(中公文庫).鐘ヶ江秀彦(2019)『21 世紀の新たなパラダイム―加速するゲーミング・シミュレーション社会(前・後編)―』マッセ OSAKA.
マクゴニガル,J. 著,妹尾堅一郎・武山政直・藤本徹・藤井清美訳(2011)『幸せな未来は「ゲーム」が創る』早川書房.




は じ め に

 文部科学省が唱道するアクティブ・ラーニング(AL)の中でもゲーミング・シミュレーション(単に「ゲーミング」とも)は,徐々に大学で導入されてきた.古くは 1960 年代からコンピュータを用いたシミュレーション予測が広まり,1980 年代以降は人間主体のゲーミングが普及してきた.
 しかし,初めてゲーミングを実践する教育者及び学習者が不安を感じるのは,今も昔も同じである.最初の実践にあたっての心理的ハードルは,きわめて高い.その理由は,座学とは異なり,ゲーミングが会話を要し,行動を選択し,交渉を通じて相手の考えを探り,合意なり均衡なりに達しようとする非計画的学習過程であり,それを事前にある程度予想して準備しようとしてしまうためである.
 しかし本書でとりあげるゲーミング・シミュレーションやロールプレイングは,すべて座学を補うものである.そもそもゲーミングとは,社会的事象を抽象化したゲームを通じて,問題発見・問題解決を見出すという教授法ないし合意形成法の 1 つにすぎない.ゲーミング大国であるアメリカで爆発的に AL が普及している背景には,学生数の増大,予算の制約,教室環境の変化がある.既存の規律型の座学では生産されにくくなり,かつ消費しきれなくなった知を,疑似体験を通じて学ぶ知に変換する方法として,AL は拡大している.むろん座学のほうが記憶形成には優れているため,ゲーミングと座学との有意な組み合わせが求められる.
 ゲーミングやロールプレイングは,主体的に考え,動き,交渉と協力を通じて学ぶことが利点である.またこれほどディベート力を向上させる教育法はない.本書は,AL の時代に教育を受ける世代の視点を交えて,ゲーミングやロールプレイングをより容易に行うことで,防災,政治学,国際関係の教育・学習分野の理解を助ける専門書である.換言すれば,座学にも資するディープ・ラーニングの効果的な学び方・教え方を示すのが本書の役割である.

 本書は, 3 つの部からなる.第Ⅰ部では,ゲーミングやロールプレイングの魅力を論じる.授業中に教育者には 1 人 1 人の学びを見る余裕が生まれ,学習者が笑顔で学ぶ瞬間を目撃する.教育者と学習者の距離は近くなる.これほど教育者・学習者双方にとって幸福な学習方法はない.また学習者の多くは,子供の頃からゲームに慣れ親しんでいる.例えば歴史学習においては,歴史の事例が学習の「対象」から「課題」に変化し,オリジナルを創る喜びを学習者が手にすることが容易になっている.
 第Ⅱ部では,ゲーミングやロールプレイングの具体例を紹介する.本書で紹介するゲーミングの実践例は,多様である.ここで紹介するゲーミングは,国際政治,日本の政治・外交,環境問題,水問題,防災等多岐にわたる.それぞれの事例で得られた学習効果・能力開発に関して説明する.
 本書の核心は,第Ⅲ部にある.第Ⅱ部で紹介したゲーミングの作成を第Ⅲ部でマニュアル化し,誰でもゲーミングを創作できるようにする.この創作は,特殊な創造力を要さない.多忙を極める教育者にとっては座学のほうが効率的であり準備時間が少ないと信じられている.しかし実は必ずしもそうではない.ゲーミングやロールプレイングにも確かに準備が必要であるが,いくつかの要素を現実に即して組み合わせれば,比較的短い時間で完成する.実際に,受講生にゲーミングを創作させる課題を提示すると,みな嬉々としてとりくむ.むろんゲーミングにはいくつかのパターンがある.用途に応じて最適な型を教育者が選び,自由に変型して,よりよいゲーミングを実践する一助としたい.

 本書は,科学技術融合財団(FOST)の 2016 年度研究助成「国際公共政策のゲーミング・シミュレーションのマニュアル化」の成果の一部である.また本書発刊にあたっては,日本シミュレーション&ゲーミング学会(JASAG)西日本ヒューマン・ベース政策過程ゲーミング・シミュレーション研究会の協力を得た.また執筆者は,神戸大学,立命館大学,京都府立大学等でゲーミングやロールプレイングを多様に用いた教育を行ってきた.本書は,これらの授業の参加学生(プレイヤー)たちが楽しく学んだ成果でもある.

2019 年 9 月
編  者

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