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芸術する人びとをつくる

美大生の社会学

芸術する人びとをつくる

何がかれらを芸術の道へと導くのか

著者 喜始 照宣
ジャンル 社会
社会 > 社会学
社会 > 文化研究
芸術
出版年月日 2022/03/30
ISBN 9784771035867
判型・ページ数 A5・256ページ
定価 5,060円
在庫 在庫あり
 

目次

序 章 美大生の社会学に向けて
1.問題の所在――芸術家養成と専門教育
2.先行研究の検討――高等教育と芸術・文化生産の研究を架橋する
3.研究課題の設定――本書の3つの問い
4.分析の視座――ディスポジション/ハビトゥス
5.研究対象と方法
6.本書の構成

第1章 美術系大学の学生の子ども時代
は じ め に
1.出身家庭の文化的・経済的状況
2.美術に親和的なディスポジションの形成背景
お わ り に

第2章 美術系高校・大学への進路選択
は じ め に
1.美術系高校への進路選択
2.非美術系高校から美術系大学への進路選択
お わ り に

第3章 美術系予備校・画塾を通じた文化獲得
は じ め に
1.美術系大学進学者の予備校・画塾経験
2.予備校・画塾の有用性と機能
お わ り に

第4章 美術系予備校・画塾が学生の大学生活に与える影響
は じ め に
1.通学者による予備校・画塾経験への評価
2.予備校・画塾の経験度合いによる大学生活の違い
お わ り に

第5章 大学生活を通じた表現行為の追求と「大学」の意味
は じ め に
1.大学生活を通じた表現行為の追求
2.「大学」への意味づけ
お わ り に

第6章 美術系大学の学生の大学生活満足度
は じ め に
1. 先行研究の検討と仮説の設定
2.大学生活満足度を多角的に捉える
お わ り に

第7章 美術系大学からの卒業後進路選択
は じ め に
1.作家志望者の学卒後メインルート
2.作家志望と就職の結びつきにくさの背景
3.作家志望者の卒業後進路選択をめぐる不安と葛藤
お わ り に

終 章 美大生の社会学から日本の芸術家養成を考える
1.本書で明らかになったこと
2.見出された重要な3つの論点
3.これからの研究のための課題

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内容説明

何がかれらを芸術の道へと導くのか

日本の美術教育は、芸術家としての生き方・あり方にどのような影響を与えているのか。美大生の子ども時代から大学卒業までの人生を手がかりに、「芸術家になる」過程を社会学的な視点から描き出す。


【試し読み】

 本書は,筆者が積み重ねてきた「美大生」調査をもとに書かれている。この一連の調査研究は,日本画を専攻するある学生への聞き取りから始まった。2010年1月のことである。
 それまで「美大」や「美大生」――それと部分的に重なる,「芸大」や「芸大生」――という言葉を見聞きしたことはあったが,当時,美大生の知り合いはおらず,筆者にとって美大は「遠い」場所であった。ちなみに,「美大生」とは「美大」の学生のことであり,「美大」とは美術・デザインを中心とした分野の専門家育成を目的とした大学・学部をおおよそ意味する言葉として日常的に用いられる略称である。
 しかし,あえてそのように特別に――他の大学や大学生とは区別して――呼ばれている,美大生とはどのような人たちで,かれらはどのような境遇から美大へと進み,どのようなものの見方や考え方を身につけているのか,そして美大とはどのような環境なのか,これらのことが漠然と気になっていた。さらにそうした素朴な疑問からだけでなく,序章でも述べるように,筆者が専攻する教育社会学では,高等教育のなかの芸術・美術に関する研究はほとんどなかったため,なおさら芸術・美術系分野の大学や学生について理解を深めたいと考えていた。
 そしてその後,冒頭に登場した学生との偶然の出会いによって,美大生調査は進展していった。その学生との会話のなかで,まさにその時期,学生たちの作品が一堂に会する展覧会が開催されることを知り,まずはそこに足を運んだ。卒業・修了制作展,いわゆる「卒展」である。会場である美大の構内や美術館には,多種多様で魅力的な作品が並んでいた。その光景を前に,どのような人たちがこれらを制作したのかと,さらに「美大」や「美大生」への関心は高まった。そして,そこで知り得た情報をもとに聞き取り調査の協力者を募ったところ,予想以上の数の方々にお話を聞かせていただけることになった。また,2013年には,美大の教職員の方々の協力のもと,4つの大学で学生を対象とした質問紙調査を独自に実施することもできた。
 本書は,こうして実現された美大生調査のデータを分析素材とし,それを社会学的な視点から読み解くことによって,芸術家たちがどのように生み出されていくのか,その社会的過程を描き出そうとするものである。特に本書は,美大の組織・制度的な側面やカリキュラムではなく,それを経験してきた美大生の幼少期から大学卒業までの人生に着目し,日本の教育社会のなかで芸術家になるという現実にアプローチすることを試みた点に特徴がある。
 この試みがどの程度成功しているかは読者の方々の判断に委ねたいが,本書が一つの契機となって,今後,日本における芸術系分野の専門教育や人材育成,キャリア形成に関する議論が活性化していくことがあれば,筆者にとって望外の喜びである。
 なお,本書は,2019年度に東京大学大学院教育学研究科に提出した博士論文「現代日本における専門美術教育を通じた作家養成――美術系大学・学部における学生の文化獲得過程に着目して」(2020年4月15日学位授与)を加筆修正したものである。本書の刊行にあたっては,「2021年度東京大学学術成果刊行助成制度(第2回東京大学而立賞)」の補助を受けた。同刊行助成への申請を薦めてくださった本田由紀先生,審査を担当していただいた匿名の審査委員の先生方にこの場を借りて感謝申し上げる。
                             (「まえがき」より)

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