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不登校の子どもとフリースクール

持続可能な居場所づくりのために

不登校の子どもとフリースクール

民間フリースクールが子どもの最善の利益を守りながら運営を続けるためには? 事業継続のための葛藤と格闘,現場の苦悩や失敗に学ぶ

著者 武井 哲郎 編著
矢野 良晃 編著
橋本 あかね 編著
今川 将征
櫻木 晴日
三科 元明
竹中 烈
宋 美蘭
ジャンル 社会 > 地域
教育
教育 > 教育・福祉
出版年月日 2022/10/30
ISBN 9784771036741
判型・ページ数 A5・156ページ
定価 2,200円
在庫 在庫あり
 

目次

序 章 不登校の実態と居場所づくりの挑戦
 第1節 フリースクールを運営することの難しさ
 第2節 非営利組織としてのフリースクール
 第3節 運営の難しさをどう乗り越えるか――研究の手順と本書の構成――

【実践編】フリースクールの運営とその実態

第1章 居場所をつくる・つづける
 第1節 NPO法人ふぉーらいふ
  1 団体の概要
  2 フリースクールForLifeのあゆみ
  3 持続可能な居場所づくりと,等しく教育を受ける権利の狭間で
 第2節 NPO法人フリースクールみなも
  1 団体の概要
  2 フリースクールみなものあゆみ
  3 なぜ事業を多角化したのか
  4 フリースクールの新たな展開
 第3節 NPO法人ここ
  1 団体の概要
  2 フリースクールここのあゆみ
  3 「ここ」の強み・独自性
  4 親子を支える仕組みの充実と内部体制の改善

 コラム1 子どもたちの満足度をあげるため、業務を効率化

第2章 子どもと保護者の幸せを実現する
――実践家による座談会から――
 第1節 プロモーション(自団体について知ってもらうための取り組みやその方法)
  1 SNSを基盤に、独自の戦略を練った広報
  2 お金をかけた広報の実際
  3 フリースクールへつながる方途
 第2節 マッチング(見学・相談・体験の際に伝える内容や利用に向けた合意形成の図り方)
  1 見学・体験を始める際に配慮すること
  2 入学・入会の条件と、入学・入会に至らなかった際のアフターフォロー
  3 見学から入学・入会に至らなかった子どもたちの割合
  4 「良心的な」団体をいかに見分けるか
 第3節 フォローアップ(子どもが通いたいと思える場づくりと保護者のニーズへの対応)
  1 通学継続にむけた働きかけ
  2 フェードアウトしそうな子どもへの働きかけ
  3 コミュニティサポートと個別アプローチの比重
  4 保護者のニーズとそれへの応答
  5 利用者のニーズの変化と対応の難しさ
  6 フリースクールからの卒業とその後のフォロー
  7 生徒は卒業後、いかにフリースクール経験を振り返るのか

 コラム2 フリースクールの人材確保と育成,そして待遇の課題

【理論編】居場所づくりの方法を考える

第3章 フリースクールの運営とその持続可能性
――包摂性・民主性とのジレンマを乗り越える――
 第1節 なぜフリースクールは小規模か
 第2節 包摂性・民主性をどこまで追求するか
 第3節 事業とどのように両立させるか
  1 事業多角化
  2 事業精選化
  3 拠点拡充化
  4 他地域での状況
 第4節 事業としての限界を乗り越える
  1 地域に根ざしたネットワーキング
  2 行政への働きかけ
 第5節 持続可能な運営のために

第4章 どのようにフリースクールを創るか
――事業性と共同性をつなぐ信頼関係――
 第1節 フリースクールの事業性と保護者の経済的負担
  1 利用料がもたらす不利益
  2 不利益を超える価値
 第2節 親の会を通したつながりの形成
  1 親の会の全国的な動向と「ここ」の現状
  2 同じ境遇が生み出すつながり
 第3節 事業性と共同性をつなぐ信頼関係
  1 愛のある大人の存在
  2 日々のやりとりによる信頼の構築
  3 職員の考え方への共感
 第4節 職員の真摯な姿勢が引き出す保護者の共同性
 第5節 共同性を維持し続けるために

第5章 フリースクールとして在り続けるために
――運営資金調達の困難性――
 第1節 ファンドレイジングの時代
 第2節 寄附金や助成金の積極的活用と事業の多角化
  1 越谷らるごの概要
  2 越谷らるごの運営の足跡
 第3節 事業委託金、寄附金や助成金を通した運営にみられるジレンマ
  1 行政からの認証を受けるということ
  2 限られた人的リソースとその持続可能性
  3 法人会員制度と運動性との狭間で
 第4節 運営の持続可能性とこれからのファンドレイジングのあり方

第6章 フリースクールは地域との信頼を紡ぎ社会を変革できるか
――北海道自由が丘学園の事例から――
 第1節 地域に根ざした持続可能でオルタナティブな教育・運営を探る
 第2節 北海道自由が丘学園の沿革と教育理念
  1 沿革
  2 教育理念
 第3節 草の根運動としての新しい学校づくり――草創期の歩み――
  1 北海道自由が丘学園をつくる会の発足
  2 法人格の取得
  3 「夕張プレスクール」の開校と移転
 第4節 札幌市での「月寒スクール」として再出発
  1 月寒スクールの概要
  2 地域を巻き込みながら地域とともに展開する教育実践の特色
 第5節 「まおい学びのさと小学校」の誕生
  1 「本気で学校をつくる」その想いに拍車がかかる
  2 設置認可を得るまでのプロセス
  3 内発的な学びが核となる学校を目指して
 第6節 子どもの内発性から教育の再構築に向けて

おわりに

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内容説明

「非営利型」民間フリースクールを “つくる” “つづける”

そして,地域とともに教育や社会を“変革する”学校づくりまで

すべての子どもが居場所や学びにアクセスできる社会を目指す
NPOの挑戦!


不登校の子どもの居場所をつくってきた民間のフリースクール。
営利を優先しないフリースクールが持続可能な運営を実現させるためには、どのような方法がありうるのだろうか。

 フリースクールの運営を手がけてきた「実践家」とフリースクールに関心を寄せる「研究者」が共同で執筆。事業継続のための葛藤と格闘,現場の苦悩や失敗に学ぶ。

【メディア紹介】
・『赤旗』2022.12.04
・『神戸新聞』2023.01.24 
「民間フリースクール」の実態報告、持続可能な在り方探る 閉校危機など経験、神戸の男性らが書籍出版 | 総合 | 神戸新聞NEXT (kobe-np.co.jp)
・『図書新聞』2023.02.25
「教育における権利保障の問題は、決して子どもたちだけの問題ではなく、それを担う大人の権利の保障という問題も踏まえる必要がある」
『月刊教職研修』2023年8月号
「子どもたちと向き合うことに専念できる安定した経営環境の実現を願わずにはいられない。」
・『基礎教育保障学研究』第7号 2023年8月 書評 学会誌 | 基礎教育保障学会 (jasbel.org)

「フリースクールがいわば「隙間」の事業化にとどまるものではなく、公教育を創り直す、その可能性をあきらめていないように思われた。」
・『日本学習社会学会年報』第19号 書評
「「お金」の問題に焦点を当てたことは、FS研究はもとより教育学研究にとって斬新な切り口であった・・・」

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[序章(第1節)より一部抜粋]

 ・・・では,営利を優先しない民間のフリースクールが持続可能な運営を実現させるためにいかなる方法がありうるのか.(中略)民間のフリースクールをめぐってはこれまで,不登校の子どもが安心して過ごせる「居場所」としての性格やその背後にあるスタッフの役割に,研究面でも実践面でも注目が集まってきた.他方で,財務状況や職務環境の厳しさといった運営上の課題については,その実態が明らかになるのみで,解決のための方策にまで考究が及んでいない状況にある.ただ,事業継続が困難なことを理由にフリースクールが閉鎖を余儀なくされれば,それは利用者にとって「居場所」の喪失を意味する.本書があえて「お金」の問題を視野に入れながらフリースクールの運営について考察を加えるのは,学校に行く/行かないにかかわらずすべての子が「居場所」を得られる社会となることを願うからである.・・・(後略)

[「おわりに」より一部抜粋]

「結果やお金は,ちゃんと後からついてくるから.」
 これは2003年に,筆者(矢野)がフリースクールとNPO の業界へ飛び込んだ頃,諸先輩方からよく言って聞かされた言葉だ.
 本書では,三つのスクールの実践を紹介し,寄付や保護者,地域の支援者など様々な切り口で,持続可能なフリースクールの運営を探ってきた.最後に,私の経験をもとに,冒頭の言葉が果たして「ホント」か「ウソ」か考えてみたいと思う.
(中略)
 さて,ここでようやく「結果やお金は,後からついてくる」という最初の言葉に戻るが,筆者が関わるフリースクールの場合20年近くの歳月をかけて,やっとその兆しが見えてきたのではないかと思う.みなさんはこの結果をどう捉えるだろうか.「20年かかっても,結果もお金もついてきているならよかったのでは?」という人もいれば,「自分が運営するならば,もっとスマートな方法がいい」という人もいるだろう.筆者も本音を言えば,結果やお金がすぐについてくるスマートな進め方があるならば,そうしたかった.
(中略)
 フリースクールの実施形態が多種多様となり,資金調達や広報ツールの選択肢も増えていく中で,その数は今後も増えていくと考えられる.しかし,がむしゃらに現場の運営をするだけで,いつまでに何をするのか,現実的な戦略が立てられなければ,いつまでたっても「結果とお金」はついてこない.その結果,フリースクールが「できてはなくなる」の繰り返しとなってしまうおそれがある.・・・(後略)
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《編著者紹介》(執筆順)

武 井 哲 郎(たけい てつろう)[序章,第2章,第3章]

立命館大学経済学部准教授.2012年,東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学.博士(教育学,東京大学).主な業績として『「開かれた学校」の功罪―ボランティアの参入と子どもの排除/包摂』(明石書店,2017年),「新しい日常における学習機会の多様化とその影響」『教育学研究』88巻4号(2021年),「障害の有無による分離に抗する教育委員会の役割―インクルーシブ教育をめぐる二つの“正義”のはざまで」『日本教育行政学会年報』46号(2020年).

矢 野 良 晃(やの よしあき)[第1章第1節,第2章,コラム1・2,おわりに]

2003年に兵庫教育大学を卒業後,NPO 法人ふぉーらいふへ入職.同法人のフリースクールForLifeで,子どもたちが地域の中で職業体験や学びを深める企画を担当し,代表へ就任.現在副理事長を兼務.それまでの経験をもとに,神戸市垂水区社会福祉協議会や神戸市の協働業務にも従事し,地域福祉の推進,まちづくりなどの分野にも関わっている.特別支援教育士.

橋本あかね(はしもと あかね)[第1章第3節,第2章(編集),第4章]

大阪大学大学院人間科学研究科助教.2019年,大阪府立大学大学院人間社会学研究科博士後期課程修了.博士(人間科学,大阪府立大学).NPO 法人フォロ副代表理事.大阪府フリースクール等ネットワーク副代表理事.主な業績に『変容するフリースクール実践の意味―設立者のナラティヴ分析から』(明石書店,2020年),「オルタナティブスクールの現状と課題―全国レベルの質問紙調査に基づく分析から」『大阪大学教育学年報』Vol. 21,89―100(2016年)(共著).

《執筆者紹介》(執筆順)

今 川 将 征(いまがわ まさゆき)[第1章第2節,第2章]

1980年生,愛知県出身.NPO 法人フリースクールみなも理事長,NPO 法人フリースクール全国ネットワーク理事,大阪府フリースクール等ネットワーク理事.大阪市立大学在学中,フリースクールについて研究.フリースクールでのボランティアを経て卒業後の2005年,大阪市に「NPO法人フリースクールみなも」を設立.不登校の子どもたちの居場所と学びの場を運営する傍,発達障害の子どもの支援にも携わり,2013年~2019年まで,大阪府高槻市の「惠耀塾」で発達障害を持つ子どもの学習支援を経験する.

櫻 木 晴 日(さくらぎ はるか)[第1章第2節,第2章(編集)]

大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程在籍中.不登校・ひきこもりのアウトリーチに携わりながら,フリースクールや定時制高校等でのフィールドワークを行ってきた.「「わからない」に向き合う」『教育』859巻(かもがわ出版,2017年),「不登校児童生徒の社会参加に果たす不登校支援機関の役割―福祉と教育の側面に着目して」『教育文化学年報』13巻(2018年)など.

三 科 元 明(みしな もとあき)[第1章第3節,第2章]

NPO 法人ここ理事長.大学生の時にミュージシャンを目指し路上ライブをしていたことがきっかけで様々な背景を持つ子どもたちと出逢う.夜回り活動や訪問支援をした後,2008年に吹田市で不登校の子どもたちの学校外の学びの場「フリースクールここ」を運営するNPO 法人ここを設立.一児の父.

竹 中   烈(たけなか たけし)[第2章,第5章]

愛知文教大学人文学部准教授.2012年,京都大学大学院教育学研究科博士後期課程指導認定.修士(教育学,京都大学).主な業績として「ソーシャルベンチャーによる官民協働の不登校生の居場所づくりの特質―〈界〉における関与者間の関係構造の変容に着目して」『教育支援協働学研究』vol. 3(2021年),「フリースクールにおけるスタッフ・子ども・親の『感情統制の三極関係』―『FS 的自己』としての親を起点として」『人間関係学研究』第21巻第1号(2016年).

宋   美 蘭(そん みらん)[第2章,第6章]

弘前大学教育推進機構准教授.2008年,北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程修了.博士(教育学,北海道大学).日韓比較の視点からオルタナティブスクールの研究(とりわけその卒業生の社会への移行にかかわる問題)に取り組んでいる.主な業績として『韓国のオルタナティブスクール―子どもの生き方を支える『多様な学びの保障』へ』(編著,明石書店,2021年),『教育課程と方法―持続可能で包容的な未来のために』(分担執筆,学文社,2017年).

 

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